細胞は外界からの様々な刺激に絶えずさらされており、自らはホメオスタシス達成のためにそれらの刺激にこまめに反応している。例えば生体内の細胞は個体の運動、呼吸、拍動、成長などに伴い絶えず張力刺激を受けている。このような機械的刺激に対する細胞内、細胞間、あるいは細胞-基質間の応答反応の研究は非常に一般的な問題にも関わらず、その例は数少ない。本研究はこの問題を研究代表者自身が開発した細胞伸展装置を使って細胞生物学的に解明しようとする事に主眼をおいている。 培養細胞用律動性伸縮装置の実験対象として選んだのは血管内皮細胞である。それはこの細胞が非常に反応性に富み、元々扁平な細胞なので細胞骨格や細胞自体の形態変化が見やすいためである。上記の装置を用いて律動的に伸展・弛緩を繰り返した刺激に対して細胞及び細胞骨格がどのように応答するか調べてみた。その結果ストレスファイバーは、これまでの定説では伸展方向に対して直交すると考えられていたにもかかわらず意外なことに張力方向とある角度を保って斜めに配向し、細胞自体の方向性もそれに追従することが本研究で明らかとなった。今年度は上記の実験で、遺伝子の新たな転写が必要なのかを転写阻害剤アクチノマイシンDなどを使って検討した。伸展率によって、配向性を変えるストレスファイバーの反応はリバージブルで数回の伸展率変更は可能である。そこに転写阻害剤を入れると、一回目の配向性の変換はうまくゆくが、2回目以降はそれがうまくゆかなくなる。このことは、一定の細胞骨格蛋白プールがあるうちは、配向性変換は起きるが、蛋白が枯渇する。遺伝子の新たな転写が必要になることを示している。
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