研究概要 |
研究目的は放射線が多分化能を看する神経堤細胞を障害するか,あるいは左右非対称性発生にかかわるホメオボックス遺伝子の発現に影響を与えるか否かを調べて,放射線の発生過程に与える影響の原則的側面の見直しを検討することである. 妊娠7.5日のマウスに^<252>Cfあるいは3MeVの中性子線を照射して,妊娠18日にその影響を調べた.照射線量は0.5Gy,0.75Gyおよび1.0Gyである.^<252>Cf照射では,生存率は線量依存的に低下し,1.0Gyでの生存胎仔は得られなかった.照射群の体重は,対照群に比較して有意に低下していたが,0.5Gy照射群と0.75Gy照射群との間に有意差は認められなかった.外脳および眼球異常が惹起された主な異常であった.3MeV中性子線照射では,生存率・体重ともに線量依存的に低下した.また,1.0Gy照射群に2%程度の生存胎仔を得ることができた.これらの胎仔の中に完全大血管転換を合併している例が認められた.両大血管右室起始症の合併例も認められた.つまり,中性子線により左右軸の乱れが生じることが確認された.その他に,象鼻様吻を有する全前脳胞症も認められた.照射後48時間でRNAを抽出し,NT-3,PitX2およびEts-2の遺伝子発現をRT-PCR法により検討した.それぞれの遺伝子発現に影響がない胚も認められたが,遺伝子発現が対照の1/2以下に低下して.いる胚が認められた.特にEts-2遺伝子の発現低下が目立つ胚が認められた.また,PitX2に変異が生じた可能性のある胚も認められた.今後の検討を要するが,放射線による完全大血管転換の発生を説明する上で興味深いデータである. その他,前年度に引き続きニワトリ胚に高エネルギーX線を照射して,NT-3,p53,ATMおよびRAD51の発現に与える影響を検討した.5Gyあるいは8Gyを照射後24時間のp53およびATM遺伝子の発現は対照群に比較して有意に低下していた.p53およびATMは放射線照射によるG1期停止や細胞死に関連する重要な遺伝子であり,放射線照射が細胞の防御機構に影響を与えた可能性が示唆され、異常発生のメカニズムを解明する上で興味深い.また,RAD51遺伝子は放射線照射により最大2倍程度発現の上昇が認められた.
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