分子生物学的手法と電気生理学的手法を組み合わせて痛み受容体の構造・機能協関の解明に迫る以下のようなアプローチで、痛み受容機構の分子メカニズムを解析した。 1. 点変異体を用いた酸感受部位の同定:酸(プロトン)によるVR1の活性化のEC_<50>が約pH5.4であること、プロトンが細胞外からのみ作用することから、VR1の細胞外ドメインの酸性アミノ酸を中性あるいは塩基性アミノ酸に変える点変異体を作成してパッチクランプ法を適用して機能解析を行った。その結果、第3細胞外ドメインの600番目のグルタミン酸がプロトンによるカプサイシン活性化電流及び熱活性化電流の制御に、648番目のグルタミン酸がプロトンによるVR1の直接の活性化に関与する重要な部位であることが明らかとなった。 2.VR1制御機構の検討:培養細胞を用いた異所的発現系でVR1活性の炎症関連メデイエイターによる制御機構を検討した。細胞外ATPによってカプサイシン活性化、プロトン活性化電流は増大した。また、細胞外ATPによってVR1の熱活性化温度閾値は43度から35度に低下した。これは、細胞外にATPが存在すれば、体温でもVR1は活性化して痛みを惹起しうることを示す。この細胞外ATPによるVR1活性の制御は代謝型P2Y_1受容体を介して起こっていること、さらに、PMAによるPKCの直接活性化、PKC阻害剤の効果の検討等から細胞外ATPの効果にはPKCの活性化が関与することが示された。ラット後根神経節細胞でも同様のカプサイシン活性化電流の細胞外ATPによる増強効果が観察され、HEK293細胞及びラット後根神経節細胞におけるP2Y_1の遺伝子及び蛋白の発現が確認された。この代謝型受容体とイオンチャネル型受容体VR1の機能連関は全く新しい「疼痛発生システム」として注目される。さらに、PKCεによってVR1が直接リン酸化されることを生化学的に証明し、リン酸化される2つのセリン残基を同定した。
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