研究概要 |
アゴニストによるイノシトールリン脂質代謝の活性化によってIP_3が遊離されると,小胞体からCa^<2+>が放出され,それによって枯渇した小胞体を充填するために細胞膜の容量性Ca^<2+>チャネルが開口してCa^<2+>が流入する.この現象は現在多くの細胞で報告されており,特に非興奮性細胞における主要なCa^<2+>動員経路として知られている.本研究者は,ラット単離褐色脂肪細胞において細胞外ATPが小胞体膜のCa^<2+>ポンプ阻害剤であるタプシガルジンによって誘導される容量性Ca^<2+>流入を完全に抑制することを報告してきた.今年度,この抑制機構についてさらに詳細に検討を行い,以下の結果を得た.細胞内Ca^<2+>濃度はCa^<2+>蛍光指示薬を取り込ませた細胞を用い,顕微蛍光測光法によって測定した.アクチンフィラメントは固定した細胞をファロイジン蛍光色素を用いて染色し,共焦点レーザー顕微鏡で観察した. 1.10 μM ATPで4分間細胞を処理すると,細胞骨格のアクチンフィラメントは細胞膜周囲に殻のように重合し,ところどころ厚く重合した部分が見られるため細胞の形状が変化しているのが観察された. 2.タプシガルジン単独ではアクチンフィラメントの分布に変化はなかったが,タプシガルジンで処理した後にATPを与えるとアクチンの細胞膜周囲への再重合が観察された. 3.P2受容体阻害剤であるスラミンは,ATPによるアクチンフィラメントの細胞周囲への再重合を抑制した. 4.アクチンの脱重合剤であるサイトカラシンDで細胞を処理すると,ATPによるアクチンの再重合は見られなかった.またサイトカラシンD処理の細胞ではATPによる容量性Ca^<2+>流入阻害は見られなかった. 5.UTP,ADPなど,容量性Ca^<2+>流入抑制効果を持たないP2受容体のアゴニストはアクチンの細胞膜周囲への再重合を引き起こさなかった. 以上のことより,細胞外ATPはP2受容体を介してアクチンフィラメントの細胞膜周囲への再重合を促進し,膜に厚く重合したアクチン蛋白がCa^<2+>流入を抑制する可能性があることが示唆された.
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