研究概要 |
P型ATPaseに属する(Na,K)ATPase,(H,K)ATPaseは触媒サブユニットであるα以外にβサブユニットを要求するが,筋小胞体Ca-ATPaseは,これらとほとんど同じ膜への配向を示しながらも,触媒サブユニットのみで機能する。しかしながら我々はCa-ATPaseも生合成の極く初期には,(Na,K)ATPaseのβサブユニットと相互作用することを見いだした。この相互作用は3日間の長期標識をすると見られないことから一過性であることが示唆された。このことを検証するため,1時間パルス標識しチェイスして48時間までの相互作用の時間経過を追う実験を行った。その結果,抗Ca-ATPase抗体により免疫沈降されるCa-ATPaseの量は,チェイス開始後1時間から48時間までほとんど変化しなかったのに対し,抗(Na,K)ATPase βサブユニット抗体では免疫沈降されるCa-ATPaseの量は数時間で急速に減少した。このことはこのCa-ATPase-(Na,K)ATPase βサブユニット複合体は一過性であり,数時間で解離することを示している。さらに解離したβサブユニットは糖鎖の変化から細胞膜に輸送され,一方Ca-ATPaseは小胞体に残ると考えられる。この複合体の一方が真にCa-ATPaseであることを確認するためウェスタンブロッティングを行った。Ca-ATPaseと(Na,K)ATPase βサブユニットを共発現し,抗(Na,K)ATPase βサブユニット抗体で免疫沈降した後,SDS-PAGE,膜転写し抗Ca-ATPase抗体で検出すると確かに約100kDaのバンドが反応していた。(Na,K)ATPase,(H,K)ATPaseではβサブユニットは,αサブユニットのC-末端側の膜貫通セグメント7番〜8番の細胞外側ループと相互作用し,C-末端領域の正しい配向での膜への挿入には不可欠であることが報告されているが,これらの結果はCa-ATPaseでも立体構造形成過程にβサブユニット様の補助因子が介在する可能性を示している。そこで(H,K)ATPaseについてもそのβサブユニットとCa-ATPaseの相互作用について検討を行った。(Na,K)ATPaseと同様に(H,K)ATPase βサブユニットをCa-ATPaseと共発現し,短時間標識の後,抗(H,K)ATPase βサブユニット抗体で免疫沈降するとCa-ATPaseの共沈が見られ,(Na,K)ATPase βサブユニットと同様に生合成の初期において相互作用をすることが示された。
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