Naチャネルは脂質二重相膜に支持されて機能している膜蛋白質であるが、脂質二重層膜の物理的性質ではなく、周りの水溶液の物理的状態により、その機能が影響を受けることを世界に先駆けて発見していたが、その分子的な機構を蛋白質科学の視点に立って明らかにした。イカ巨大神経線維の細胞内灌流標本を用いて、細胞内外に高濃度の非電解質を含む溶液を流すと、Naチャネルに関するイオン電流やゲート電流の時間経過は遅くなる。分子量の異なる非電解質による時間経過の変化を詳細に解析した結果、この現象を溶液の粘性と浸透圧の効果に分離することが出来た。電位駆動型のNaチャネルの電位センサーは溶液の粘性によりその動作時間が決定され、水やイオンを通すポア部分は溶液の浸透圧の影響を受けることを明らかにした。これらの現象は、電位センサー及びその支えとなる周りの構造は親水性で揺らぎの大きな構造を持つことを示している。ポアは比較的堅い構造を持ち、非電解質を大きさにより選別できる構造を持っていることが明らかになった。このような実験データに基づき、高次構造データを利用し分子機構の解明を目指す計算機を用いた研究も開始している。本研究は生体における水の役割一端を示しているもので、本研究で明らかになった現象は、蛋白質が真空中ではなく水の中で機能していることに由来し、生体分子機械の動作原理の一つを示している。 本研究のうち、ヤリイカ巨大神経線維の実験は京都府与謝郡伊根町にある生理学研究所・伊根実験室で行った。
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