痛覚過敏は、痛覚の伝達に重要な役割を果たすポリモーダル受容器が炎症メディエーターによって感作されることが一因となっておこると考えられ、内因性発痛物質であるブラジキニン(BK)等による痛み受容器細胞の反応がプロスタグランジンE_2により増強されることが知られている。本報では、1)BK受容体の発現が炎症時にどのように変化するかをRT-PCR法により調べ、末梢ポリモーダル受容器の反応性の変化と比較し、2)電気生理学的データが蓄積されているイヌにおいて、脊髄後根神経節(DRG)からプロスタグランジンE_2受容体サブタイプの1つであるEP_3cDNAのクローニングを行った。 1)アジュバント関節炎ラット皮膚-伏在神経のin vitro標本においては、BKに対する反応閾値の低下と反応の増大が観察され、このBK感受性の増加はB_2受容体(B_2R)アンタゴニストにより完全にブロックされる。DRGにおけるB_2R mRNAの発現量も、関節炎が確認できるアジュバント注射後2週間では、有意に増加していたので、BK感受性の増加にBKB_2Rの発現増加が関与するものと考えられる。今後、繰り返し低温暴露という物理的環境の変化(SARTストレス)によるB_2R mRNAの発現量の修飾を調べる予定である。 2)イヌEP_3cDNAオープンリーディングフレーム塩基配列の解析の結果、DRGには少なくとも2種のアイソフォームが存在している可能性を示唆する結果を得た。今後、SARTストレスの研究が進みつつあるアジュバント関節炎ラットを用いた実験系において、その痛覚過敏誘起のメカニズムを、イヌ精巣-精巣神経標本において得られた多くの電気生理学的知見を参考に解析したいと考えている。
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