自律神経失調モデルとして知られる繰り返し低温曝露(Specific Alternation Rhythm of Temperature)ストレス時には痛覚過敏がおこることが知られている。一方、イヌにおける電気生理学的実験から、末梢におけるプロスタグランジンの痛み増強作用にEP3受容体が関与する可能性が示唆されている。そこで、イヌ脊髄後根神経節細胞(DRG)から、EP3受容体cDNAをクローニングし、2種のバリアントEP3-A、-Bの塩基配列を明らかにした。クローニングしたEP3バリアントEP3-A、-Bをそれぞれ安定に発現するCHO株を樹立し、イヌDRGにもcAMP産生に対して抑制作用を有するEP3Rが存在することを、また、このcAMP産生抑制作用が百日咳毒素処理により阻害されることを明らかにした。 SARTストレスの影響を正常及びアジュバント炎症疼痛ラットで調べた。アジュバント炎症ラットでは内因性痛み物質であるブラジキニンに対する反応が増大-痛覚過敏がおこる。また、アジュバントを注射した2週間後のDRGにおけるブラジキニンB2受容体やプロスタグランジンEP3受容体の発現量を半定量的PCR法により調べたところ、ともに増加する傾向が認められた。痛覚過敏の一因としてこれら炎症メディエーター受容体の発現量増加も関わる可能性があると考えられる。SARTストレスを負荷したラットでは体重増加の抑制、機械的疼痛閾値の低下と視床下部の副腎皮質ホルモン放出ホルモン(CRH)mRNAの発現が増加する傾向がみられた。アジュバント炎症ラットでは機械的疼痛閾値の低下が観察されたが、SARTストレスを負荷してもそれ以上の低下は観察されなかった。慢性炎症による痛覚過敏が大きすぎてそれ以上の増悪を検出できなかったためかもしれないが、SARTストレスにより視床下部から放出されたCRHによって、炎症刺激に対する耐性を生じた可能性もあると考えられる。
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