本研究の目的は樹状突起から放出される下垂体後葉ホルモンが、情動ストレス刺激に対する神経内分泌反応を促進するという仮説を検証することである。下垂体後葉ホルモンであるバゾプレシンとオキシトシンを分泌する神経内分泌細胞は、後葉にある神経終末からの他、視床下部の樹状突起からもバゾプレシンとオキシトシンを放出する。この樹状突起のバゾプレシン・オキシトシンは、神経内分泌細胞自身に作用し、その興奮性を高めると報告されている。一方、様々なストレス刺激は、ノルアドレナリン神経を介し神経内分泌反応を誘発する。申請者はこれまでに、侵害刺激を加えると、延髄のノルアドレナリン神経が興奮し、視床下部・視索上核におけるノルアドレナリン放出が促進し、視索上核のオキシトシン分泌細胞が興奮し、その結果、下垂体後葉からのオキシトシン分泌が増加することを、明らかにしてきた。本年度は、バゾプレシンとオキシトシン分泌細胞が存在する視索上核のノルアドレナリン神経終末に、樹状突起由来の下垂体後葉ホルモンが作用し、ノルアドレナリン放出を修飾しているかを検討した。視索上核のノルアドレナリン放出の測定のために、視索上核を経咽頭的に露出し、直視下でマイクロダイアリシス用プローブを視索上核に刺入し、潅流液中のノルアドレナリン量を測定した。視索上核にはバゾプレシン或いはオキシトシン神経の神経終末はほとんどないとされている。そこで、樹状突起のバゾプレシンとオキシトシンのシナプス前に対する働きを明らかにする目的で、外来性に、バゾプレシン或いは、オキシトシンを視索上核に投与した。高K^+液を視索上核内に潅流させたときのノルアドレナリン放出は、バゾプレシンにより増強された。また、逆に、バゾプレシン受容体アンタゴニストにより、用量依存性に減弱された。これらのデータは、樹状突起のバゾプレシンがノルアドレナリン放出を促進していることを示唆する。
|