筋疲労原因物質群による張力変調の作用点を解明するために、リン酸アナログ(フッ化アルミニウム、ヴァナジン酸)を用いて、活性化過程をCa2+の結合による細いフィラメントの活性化と、フィラメントへの収縮性クロスブリッジの結合形成と、収縮性クロスブリッジによる自己増殖的な筋活性化に分離することで、筋収縮変調作用の作用点を検索することが本研究の目的である。クロスブリッジ形成までの活性化過程の作用点を分離するためにはミオシンのATP結合部位の動態の観察が必要である。本年度は、ミオシンのATP結合部位の分子動力学によるシミュレーションと、19F-NMRによる観察を試みた。さらに、前年度までの結果をふまえ筋疲労原因候補物質群のうちBDMとADP存在下で張力測定を行った ミオシンのATP加水分解サイト付近の分子動力学計算を行い、クロスブリッジ形成による水分子の振る舞いをシミュレートした。結合サイトのごく近傍での計算では、H-NMRを用いた実験とは異なる結果となり、現在その原因を検討中である。 また、19F-NMRについては、フッ化アルミニウムをトラップした筋線維試料を高密度で充填することで、19Fの信号を観察することはできたが、その動態を考察できるだけの強度が得られていない。そこで、さらに改良を加えるか他の方法を開発するかが今後の課題である。 張力測定の結果は、1)BDM存在下では収縮張力発生能の回復とスチフネスの回復が遅くなることが、2)ADP存在下ではそのどちらも顕著な変化が観察されないことがわかった。
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