研究概要 |
筋疲労原因物質群による張力変調の作用点を解明するために、リン酸アナログ(フッ化アルミニウム、ヴァナジン酸)を用いて、活性化過程をCa2+の結合による細いフィラメントの活性化と、フィラメントへの収縮性クロスブリッジの結合形成と、収縮性クロスブリッジによる自己増殖的な筋活性化に分離することで、筋収縮変調作用の作用点を検索することが本研究の目的である。平成12年度はその基礎となるリン酸アナログの動態についての研究を行った。平成13年度は前年度の結果をふまえ筋疲労原因候補物質群のうちBDMとADP存在下で張力測定を行い、さらに、クロスブリッジ形成までの活性化過程の作用点を分離するために、ミオシンのATP結合部位の動態を分子動力学によるシミュレーションと、19F-NMRによる観察を行った。 1.収縮張力発生能・スチフネス測定 (1).初期張力応答の低下から85%程度のクロスブリッジにはフッ化アルミニウムが取り込まれている。(2).初期張力応答の回復から、ATPがなくてもCa2+による活性化だけでその遊離は促進される。(3).収縮性クロスブリッジの形成によってさらに遊離は促進される。(4)Ca2+による活性化によってスチフネスは上昇し、フッ化アルミニウムの遊離が促進される。(Yamaguchi&Takemori,2001) 以上の結果を基に1)BDM存在下では収縮張力発生能の回復とスチフネスの回復が遅くなることが、2)ADP存在下ではそのどちらも顕著な変化が観察されないことがわかった。 2.X線回折 ヴァナジン酸を結合したミオシン頭部は、筋フィラメント格子内でもM-ADP-piと類似した分子形態にある。 3.19F-NMR 標本の均一性を保つため、微少試料を用いている。ナノプローブを用いることによって、筋線維内に取り込まれたフッ化アルミニウムからのシグナルを測定することができた。まず、微少試料をナノプローブ用試料管内に高密度に充填した状態での解析を行っている。 4.ミオシンのATP加水分解サイト付近の分子動力学計算を行い、クロスブリッジ形成による水分子の振る舞いをシミュレートした。結合サイトのごく近傍での計算では、H-NMRを用いた実験とは異なる結果となり、現在その原因を検討中である。
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