研究概要 |
宇宙から帰還した宇宙飛行士や長期間ベッドで安静にしているヒトでは姿勢変換時耐性が悪く、失神を起こしやすくなることがよく知られている。筆者はこの原因として微小重力環境における胸腔内血液量の増加がヒトの圧反射感受性を低下させる為に起きるのではないかとの仮説を立て、検討した。微小重力環境における血液の頭側シフトをシミュレートするために9人の健康男子被験者に腰部、剣状突起位、及び腋窩線位まで浸水させ、それぞれの水位において心拍の頸動脈圧反射感受性をネックチャンバー法で、動脈圧反射感受性をシークエンス法で測定した。その結果、浸水深度に対応して胸腔インピーダンス及び心拍数が低下し、一回心拍出量、および心拍出量が増加して胸腔内血液量の増加が認められた。圧反射応答曲線から求めた感受性は腋窩線の水位で空気中に比べ有意に増加した(P<0.05)。一方、シークエンス法で求めた自然の血圧動揺時の動脈圧反射感受性は剣状突起位および腋窩線位で空気中に比べ有意に増加した(P<0.05)。以上から頸下浸水による心肺圧受容器へのloadimg負荷は心拍の圧反射感受性を増大させることが判明した。更に胸腔内血液量を増加させる手段として10人の被験者に頭部を水平位以下(15°または30°)に下げて臥床させ(head-down tilt, HDT)、この時の動脈圧反射感受性を同様に測定した。その結果、圧反射感受性はHDTの程度に依存して増大する傾向を示したが、統計学的には有意差はなかった。シークエンス法による心拍応答の感受性についても同様な結果となった。以上から急性の心肺圧受容器への負荷刺激は動脈圧反射性の心拍制御の感受性を低下させないことが判明した。本研究は微小重力環境曝露によって起きる血圧調節不全の原因として中心血液量増大は重要な役割を果たしていない可能性を示唆した。
|