免疫系の信号は脳に伝えられ、感染時の発熱、痛み、食欲不振などの神経内分泌症状を引き起こす。このような反応を引き起こすサイトカインは複数知られているが、複数存在することの生理的意義は不明であった。一方、私達はこれまでに免疫系信号(サイトカイン)から神経系信号(プロスタグランジン)の切り換えの場は脳血管内皮細胞であることを示してきた。本実験では次の2つの仮説を検証した。(1)複数のサイトカインは相乗的に作用する。(2)この相乗作用は脳血管内皮細胞で起こる。仮説(1)の検証:マウスの脳室にインターロイキン-1β(IL-1β)とインターロイキン-6(IL-6)を同時に投与すると、それぞれを単独で投与したときに起こる発熱を足し合わせたよりも強い発熱が見られた。またこの相乗効果はIL-1β convertingenzyme(ICE)ノックアウトマウスやIL-6ノックアウトマウスでより顕著であった。仮説(2)の検証:脳血管内皮細胞でのプロスタグランジン合成の律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の誘導にも、IL-1βとIL-6の相乗効果が認められた。さらに、これらサイトカインはそれぞれ単独でIL-1β1型受容体、IL-6受容体の両方を脳血管内皮細胞に誘導する。すなわち、脳血管内皮細胞では複数のサイトカインそれ自身と他のサイトカインの受容体を相互誘導することで、おたがいの作用を増強していることが明らかとなった。以上の結果から、複数のサイトカインが脳血管内皮細胞で相互作用して、免疫系から脳への情報伝達が実現していることが示された。
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