ウレタン麻酔ラットの腸内に様々な栄養素や非栄養素を投与すると溶液の浸透圧に依存したエネルギー消費反応が誘起される。この反応における自律神経や脳の関与ならびに発熱との関係を調べた。迷走神経を横隔膜下で切断すると反応は減弱し、内臓神経を腹腔神経節と上副腎神経節間で切断しても影響はなかった。迷走神経遠心終末の伝達を遮断するアトロピン前投与も効果がなかったので、迷走神経の求心繊維が関与していた。カプサイシン脱感作動物では正常動物と同程度の反応がおきたので、この求心繊維は侵害受容繊維ではなかった。前脳の関与を明らかにするために除脳を行ったが反応には影響なく、また発熱を阻害する量のインドメタシン前投与も効果がなかったので、発熱時のエネルギー消費反応とは異なって下位脳幹が重要であることが分かった。末梢機構を明らかにするためにβアドレナリン受容体拮抗薬であるプロプラノロールを前投与したところエネルギー消費反応は大きく減弱した。副腎髄質摘除あるいは副腎交感神経切断ラットでも反応は抑制された。したがって、副腎交感神経活動の亢進とアドレナリン分泌がこの反応に重要であった。食事誘導性熱産生機構において腸内容物の浸透圧情報が腸管付近で検出され、迷走神経副腎反射が熱産生の初期1時間において重要な役割を果たしていた。それ以降の熱産生に関してはベータアドレナリン受容体を介していたが、副腎の関与は少なかったので、交感神経系の活性化による機構が判明した。また、同時に吸収された栄養素の浸透圧情報も熱産生誘起に関わっていたが、この場合には交感神経系の関与はなく、浸透圧受容からエネルギー消費に至るには少なくとも3つの生理機構が働いていることが分かった。
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