食事誘導性熱産生の生理機構を解明するために、十二指腸カニューレを用いて麻酔ラットに各種栄養素溶液を注入したときの熱産生反応を調べた。ブドウ糖や果糖の溶液を注入すると呼吸商の上昇を伴って熱産生量が増加したが栄養素でない食塩水やメチルブドウ糖溶液の投与によっても熱産生量が増加した。生体にとって有効な浸透圧刺激となりにくい尿素の投与では熱産生は少なかった。なお、腸内投与と同量の食塩を大腿静脈や肝門脈内に投与すると、投与後に一時的な熱産生反応が起きたが、その大きさは腸内投与に比べて有意に小さかった。迷走神経を横隔膜下で両側切断すると食塩水注入により誘起される熱産生反応の初期1時間の反応が消失したが、それ以降の熱産生反応は対照動物と同様に誘起された。アトロピン前処置は効果がなかったので、迷走神経中の遠心性神経は熱産生に関与しておらず、求心性神経が浸透圧情報を脳に伝えているものと考えられる。キャプサイシン脱感作ラットでも高張液による熱産生は正常であったので、侵害受容器は関与していない。内臓神経を副腎神経節下で切断しても反応に影響しなかったので、この場合の浸透圧情報は内臓神経を介していない。また、内臓交感神経も重要な役割を果たしていない。内臓神経の副腎への分枝の切断または副腎髄質の摘除を行ったところ初期1時間の熱産生反応が消失した。後期の反応は残った。βアドレナリン受容体拮抗薬の前処置を行うと全期間の熱産生反応が大きく減弱した。血漿中のモノアミン濃度は刺激後20分でアドレナリンが有意に上昇したが、1時間以降は元のレベルに戻り、ノルアドレナリン濃度は刺激後2時間まで有意に高かった。したがって熱産生の初期反応は副腎から分泌されるアドレナリンが、長期にわたる反応には交換神経終末から分泌されるノルアドレナリンが関与していることが明らかになった。
|