放射線治療を受けた後の組織における外科的処置では、易感染性や創傷治癒遅延などの術後合併症の頻度が高いことが知られている。その原因の一つとして、放射線照射後の顕著な血管障害が考えられており、とりわけ血管内皮細胞は他の組織に比較しより高い放射線量を吸収し易いことから内皮細胞の機能的あるいは形態学的変化がこれに関係している可能性が指摘されてきた。われわれは、先に、放射線照射により、血管内皮細胞の形態学的変化を伴わず、内皮由来一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現が特異的に損なわれることを、^<60>Coで照射したウサギ耳動脈を用いて実験し証明してきた。放射線照射による変化は、照射に暴露されている間に発生する活性酸素種と関係しており、それが放射線傷害の最も重要な間接的なメカニズムとして考えられている。そこでウサギの耳に^<60>Coを照射し、一定期間後に認められるeNOS発現の変化に対して、フリーラジカルスカベンジャーとして開発されその臨床的有用性が脳梗塞急性期において認められているedaravone投与の効果について検討した。耳動脈をphenylephrineで前収縮させた時のacetylcholineによる内皮依存性弛緩反応は、照射群で著明に減弱していた。Edaravone処置により、その弛緩反応は、対照群レベルまで回復した。免疫蛍光染色において、耳動脈内皮におけるeNOSタンパクの発現は、照射群で明らかに低下していた。この発現低下は、edaravone処置により改善した。Pixel intensityにより免疫組織染色での免疫活性を解析したところ、上記の変化は統計学的に有意であった。Western blot解析では、照射後、eNOSタンパクの発現は、約50%に低下していた。Edaravone処置により、eNOS発現低下は完全に回復していた。以上の結果は、放射線照射によるeNOS発現の低下は、照射によって生じる活性酸素種が関与していることを強く示唆する。放射線照射の際に生じる活性酸素種が、eNOSタンパク自体に作用してその発現を抑えるのか、それともeNOSの遺伝子レベルに作用するのか、eNOS遺伝子のプロモーター領域を修飾する転写因子の発現に関与するのかは、今後の課題として残されている。
|