1.エンドセリンによる神経栄養因子産生:ラット培養アストロサイトにおいてエンドセリン(ET)は、神経栄養因子であるGDNFおよびBDNFの転写を促進した。ET刺激はこれら神経栄養因子のmRNAおよびペプチド量を増加させた。ETによるGDNF産生は、細胞内Ca除去やERKの阻害で抑制されたが、グルココルチコイドやpyrrolidine dithiocarbamateでは阻害されず転写因子NFkBを介さない新たな機構であることが示唆された。また、BDNF産生については神経細胞で報告されているCa依存的な機構ではないことが示された。ラット脳室内へのET受容体刺激薬Ala-ET-1の投与は、投与7日で海馬と大脳皮質のGDNFmRNA量と線条体でのBDNFmRNA量を増加させた。免疫組織染色は、これらの産生がGFAP陽性細胞即ち活性化アストロサイトにより生じていることを示した。以上の結果は、アストロサイトのET受容体刺激が、神経栄養因子産生を促す薬物の標的になり得る可能性を示す。 2.エンドセリンによるアストロサイト増殖の機構:ETの増殖作用をfocaladhesion kinase(FAK)との関連で研究し以下の結果を得た。ETは、培養アストロサイトでFAK活性化を促進した。外来野生型FAKの導入は、細胞増殖の促進を起こす一方、ETによる増殖は、dominant-negative型FAKの導入により阻害され、アストロサイトの増殖におけるFAKの関与が示唆された。細胞周期調節タンパクcyclin Dに対し、野生型FAKは、cyclin D3の発現を起こした。またdominant-negative型FAKは、ETによるcyclin D3発現を阻害した。これらの結果は、ETによるアストロサイトの増殖がFAKを介したcyclin D3発現により調節されていることを示唆する。
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