カルシニューリンは酵母から哺乳動物に至るまで高度に保存された蛋白質脱燐酸化酵素である。野生型分裂酵母では免疫抑制薬であるFK506によりカルシニューリンの機能を抑制しても成育に影響がない。この現象に基づいて、我々は分裂酵母をモデル生物として用いて、FK506の存在下で致死となる変異体(its変異体)の網羅的スクリーニングを展開し、多数の変異体を単離している。本研究では、これらのカルシニューリンと機能的に関連する遺伝子産物とカルシニューリンとの相互作用の解析を通して、カルシニューリンが関与する蛋白質脱リン酸化及びリン酸化ネットワークを明らかにする事を目的としている。 本年度はits8変異体の解析およびその原因遺伝子の同定と機能解析を行った。its8遺伝子はGPIアンカー合成酵素の一つであるPig-n(ヒト)およびMCD4(出芽酵母)と高い相同性を有する蛋白質をコードしていた。its8破壊体は非常に成育が遅く、多核多隔壁の細胞形態を示した。Its8融合蛋白質は小胞体に局在していた。its8変異体は制限温度下あるいはFK506存在下で、ほとんどの細胞が分裂中隔を持った状態で増殖停止していた。これらの結果から、its8変異体はGPIアンカー合成障害の結果、細胞壁の脆弱性、細胞形態異常および細胞質分裂異常を示していることが示唆された。カルシニューリン破壊体は、Pig-nおよびMCD4の抑制薬であるBE49385に高い感受性を示し、また、カルシニューリンの特異的抑制薬であるFK506によりits8変異体の細胞質分裂異常が増悪した。これらの結果より、カルシニューリンと、its8遺伝子産物は細胞壁integrityの制御を介して、細胞質分裂と細胞増殖において必須の機能を分かち合っていることが示唆された。これらの遺伝子は哺乳動物細胞にもホモログが存在しており、酵母細胞と同様、細胞形態の維持に関与していると考えられる。
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