研究概要 |
カルシニューリン(CN)は酵母から哺乳動物に至るまで高度に保存されたタンパク質脱リン酸化酵素である。我々は分裂酵母をモデル生物として用いて、免疫抑制薬FK506の存在下で致死となる変異体(its変異体)の網羅的スクリーニングを行い、多数の変異体を単離した。本研究は、これらのCNと機能的に関連する遺伝子産物とCNとの相互作用の解析を通して、CNシグナルネットワークを明らかにすることを目的として行い、以下の成果を挙げた。 (1)its3遺伝子は必須遺伝子であり、ホスファチジルイノシトール4リン酸キナーゼ(PI4P5K)をコードしていた。PI4P5Kは細胞膜上にPI(4,5)P2と共局在し、細胞周期とともにその局在が変化した。its変異体は制限温度下あるいは免疫抑制薬存在下でアクチンの局在異常及び細胞質分裂異常を呈した。 (2)its8遺伝子はGPIアンカー合成酵素の一つをコードしていた。its8破壊体は非常に成育が遅く、多核多隔壁の細胞形態を示した。Its8融合蛋白質は小胞体に局在していた。 (3)低分子量GTP結合タンパク質RabファミリーであるYpt3/Its5は細胞質分裂、細胞壁形成および液胞の融合などの生理機能に重要な役割を示すことが明らかとなった。さらに、細胞内輸送系の制御において、Its5はCNと協同的に働いて重要な役割を果たしていることが示唆された。 (4)細胞隔壁形成に関与するタンパク質リン酸化酵素Its10/Cdc7の機能解析を行った。我々が単離したits10/cdc7変異体の解析から、CNが細胞質分裂のcell separationステップ以外に、新たに、sepatation initiation network (SIN)経路をターゲットにして機能することが示唆された。 以上の結果より、細胞壁integrityの維持、隔壁形成、細胞質分裂、細胞増殖、および細胞内輸送などの多彩な現象において、CNとこれらのits遺伝子産物は必須の機能を分かち合っていることが示唆された。
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