MCTP (monocrotaline pyrrole)は実験動物に肺高血圧症を引き起こすことが知られている。MCTP処理した血管内皮細胞はcdc2キナーゼの阻害によって巨大化するが、本研究では、この巨大化内皮におけるNO産生機構の障害機序とその回復の可能性を検討した。 昨年度までの本研究において、MCTP処理したウシ肺動脈内皮細胞(CPAE)ではNOの産生が著しく低下することが明らかになった。本年度はこれをさらに詳細に検討するため、MCTP処理CPAEにおける内皮型NO合成酵素(eNOS)発現に関して検討した。MCTP処理で巨大化したCPAEからmRNA及び蛋白を回収して解析したところ、eNOSのmRNAの発現量は非処理細胞に比較して差がなかったのに対して、蛋白発現量は10分の1程度に著明に減少していた。このことより、MCTP処理によってeNOSの発現は転写レベルでなく蛋白発現レベルで障害されていることが明らかになった。また、これとは別に我々はCa反応に関して検討し、MCTP処理細胞においてもアゴニスト刺激に対するCa反応は正常に認められることが明らかになった。従って、MCTP処理細胞におけるNO産生の低下は主としてeNOS発現の低下によっているものと考えられた。 酵素の発現低下は基質量の増加によって代償できると考えられるため、次にL-arginineを大量に存在した条件下でのモデル血管における内皮依存性弛緩反応を検討したところ、MCTP処理内皮においても有意な回復を示した。従って、L-arginineが肺高血圧症の治療法として使用できる可能性が示唆された。
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