研究概要 |
神経原性肺水腫における血管透過性亢進機序を解明するため、neuropeptide Y(NPY)Y3受容体のDNA配列を調べる実験系、血管内皮細胞を使った実験系、そして中枢神経系特に延髄におけるNOの変動に伴う発生率の変化を検討する実験系を用いた。 既にneuropeptide Yは、フィブリン肺水腫などの神経原性肺水腫の発生において血管透過性を亢進させる交感神経終末から放出される重要な神経伝達物質であることを示した。その関与するNPY Y3 receptorは、現在まだ遺伝子配列が決定されていない。そのため、有効な薬物の開発に支障を来している。今年度そのクローニングを開始した。ラットの延髄と肺からmRNAを抽出してcDNA作成後、ZAP Express VectorにligateしてZAP発現ライブラリーを作成した。大腸菌株に感染させ寒天培地上でプラークを形成させた。NPYおよび抗NPY抗体さらにリガンドPYYと抗PYY抗体との反応性からクローニングを進行中である。 ラットの大動脈内皮細胞を単離して培養を行った。血管透過性の変化は、内皮細胞を直径0.5ミクロンの穴のある培養皿の上で培養して蛍光色素でラベルしたアルブミンの通過量によって検討した。また、一方では内皮細胞に発現する血管内皮細胞成長因子VEGF mRNAおよびその蛋白量をPCR, western blottingにて検討した。現在注射麻酔剤(ketamine, propofol, thiopental),神経伝達物質(neuropeptide Y, norepinephrine, acetylcholine)、その他の生体内物質について、諸指標の変化から血管透過性に影響する物質の薬理学的検討を行っている。ketamine, thiopentalの通常用いられている濃度は透過性を亢進させるVEGF放出量を増加させた。 延髄におけるNO放出量の増加は、フィブリン肺水腫発生率を増加させることが昨年度報告したが、今年度ではさらに迷走神経切断2週間後にbNOS発現量の増加が顕著であり、そのような時フィブリン肺水腫の発生率は有意に抑制されることが分かった。しかし、水腫液中の蛋白濃度は発生率の時間経過とは異なった経時的変動を示した。今年度さらに延髄のNO遊離を増加させる興奮性神経伝達物質L-glutamate, aspartateの影響を調べている。脳脊髄液中へのNO遊離の増加が見られ、フィブリン肺水腫の発生率は完全に抑制された。NOS阻害剤のL-NAMEの前処置によって元に戻った。現在さらに関与する受容体について調べている。
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