平成12年度科学研究費補助金により以下の実績を得た。 deoxycorticosterone acetate(DOCA)-食塩誘発性高血圧モデルの病態発症、進展におけるエンドセリンET_B受容体の役割をET_B受容体遺伝子欠損ラットを用いて調べた。DOCA-食塩処置を施したホモ接合体の全身血圧は野性型に比べて明らかに早期より上昇し、その程度もきわめて強いものであった。また、DOCA-食塩処置3週目には死亡例もみられた。野性型に比し、ホモ接合体では、DOCA-食塩処置4週後において尿量、尿中タンパク排泄量、尿中Na排泄率の有意な増加とクレアチニンクリアランスの有意な低下が観察された。さらに、腎組織障害に著明な悪化が認められ、血管肥厚パラメーターも顕著に増大した。一方、DOCA-食塩処置開始と同時に選択的ET_A受容体拮抗薬であるABT-627(10mg/kg/day、1日2回)の慢性経口投与を行ったところ、高血圧の発症と進展はほぼ完全に抑制され、DOCA-食塩処置4週間後にみられる心肥大、大動脈血管肥厚や腎機能異常、腎組織障害も有意に改善された。また、ホモ接合体の腎および血管組織並びに尿中ET-1含量はDOCA-食塩処置により著しく増加したが、この増加はABT-627の投与によりsham群と同程度にまで抑制された。ホモ接合体の血漿中ET-1含量はDOCA-食塩処置によっては変化が認められなかったが、ABT-627の投与により著明な増加が認められた。 以上、ET_B受容体を介する作用はDOCA-食塩誘発性高血圧並びにそれに伴う心血管、腎障害に対して防御的に機能するものと考えられた。また、ET_B受容体欠損によるDOCA-食塩高血圧の病態発症と進展の感受性増大には、ET-1の産生増加とET_A受容体系の機能亢進が密接に関与することが示唆された。このように、本病態の発症、進展におけるET_A受容体を介する作用の重要性について確認されるとともに、ET_A受容体拮抗薬が高血圧病変に対して臨床的に有用である可能性も示唆された。
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