DOCA食塩誘発性高血圧モデルの病態発症、進展におけるエンドセリンET_B受容体の役割をET_B受容体遺伝子欠損ラットを用いて調べた。DOCA-食塩処置を施したホモ接合体の全身血圧は野性型に比べて明らかに早期より上昇し、その程度もきわめて強いものであった。選択的ET_A受容体拮抗薬ABT-627の慢性投与は両動物群における血圧上昇をほぼ完全に抑制した。野性型に比し、ホモ接合体では、DOCA-食塩処置により高度な腎障害と血管肥厚が観察された。またこれらの障害もABT-627の投与により有意に改善された。また、ホモ接合体の腎および血管組織並びに尿中ET-1含量はDOCA-食塩処置により著しく増加したが、この増加はABT-627の投与によりsham群と同程度にまで抑制された。ホモ接合体の血漿中ET-1含量はDOCA-食塩処置によっては変化が認められなかったが、ABT-627の投与により著明な増加が認められた。以上、ETB受容体を介する作用はDOCA-食塩誘発性高血圧並びにそれに伴う心血管、腎障害に対して防御的に機能するものと考えられた。また、ET_B受容体欠損によるDOCA-食塩高血圧の病態発症と進展の感受性増大には、ET-1の産生増加とET_A受容体系の機能亢進が密接に関与することが示唆された。 同様の動物を用いて、虚血性急性腎不全の進展と維持におけるET_B受容体の役割についても調べた。虚血性急性腎不全は45分間の腎動静脈の結紮と血流再開により作成した。再灌流24時間後の腎機能並びに組織障害は両動物群で同程度に認められ、これらの障害は時間とともに徐々に回復した。しかしながら、再灌流7日後の回復状況は野生型に比しホモ接合体において明らかに遅延していた。虚血再灌流後の腎ET-1含量の増大はホモ接合体において顕著であった。このように、ET_B受容体を介する作用は虚血性急性腎不全の進展に深く関与しないものの、腎虚血再灌流障害からの回復過程に関わることが示唆された。
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