Na^+/Ca^<2+>交換輸送体(NCX)は、イオン濃度勾配および膜電位に依存して細胞内外のCa^<2+>とNa^+を交換輸送するトランスポーターである。この輸送体には、心筋に豊富に発現するNCX1、脳・骨格筋に特異的に発現するNCX2およびNCX3の3種のアイソフォームが存在する。本研究では、特異的なNCX阻害薬およびNCX遺伝子改変ミマウスを用いて、この輸送体が関わる細胞生理及び病態を解明し、このNCX阻害薬の薬物治療応用への可能性を追及することを目的とした。これまでに、我々はNCX3に選択性を有するNCX阻害薬KB-R7943を開発しているが、本年度において、NCX1に選択性を有する阻害薬SN-6を見出した。この作用部位をNCX1/NCX3のキメラ解析により検討したところ、KB-R7943とは異なる部位であることが示された。また、変異解析から、KB-R7943およびSN-6の阻害活性はNCXの活性制御機構の一つであるNa不活性化と関連することが示唆された。これら阻害薬はNCXの生理機能を解析する薬理学的ツールのみならず、活性制御機構を解析するプローブとしても有用であると考えられた。また、本年度において、NCX1トランスジェニックマウスの開発に取り組み、これまでに2系統の樹立に成功した。さらに、NCX2ノックアウトマウスの開発にも取り組み、キメラマウスを作成する段階にまできた。現在、既に保有しているNCX1ノックアウトマウスとNCX1トランスジェニックマウスを用いて、心臓、脳および腎臓の虚血再灌流障害モデルを作成中である。これまでの結果から、NCX1遺伝子改変マウスでは各臓器の虚血再灌流障害の感受性が変化していることが示された。また、NCX阻害薬が虚血再灌流障害を抑制することも観察した。これらのことは、NCX阻害薬が虚血再灌流障害の予防薬・治療薬として有望であることを示唆している。今後、同様の手法を用いて、他の病態とNCX1の関係を明らかにして行きたいと考えている。
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