哺乳類分子シャペロンの中でも、とりわけ機能解析の遅れているHSP60とHSP10に関して、ミトコンドリア移行の機序と、生理機能を解析した。 脱水ラット腎臓内の各セクションにおけるHSP60の変動を観豪した結果、3及び5日間脱水ラット腎臓のCortes及びMedullaにおいては、細胞質、ミトコンドリア共にHSP60の変動は観察されなかった。一方、3及び5日間脱水Papillaにおいては、細胞質内のHSP60が減少し、ミトコンドリア内のHSP60が増加した。脱水により、ストレス負荷の最も顕著なPapillaミトコンドリア内のHSP60が増加した結巣は、脱水によるミトコンドリア内変性蛋白質の急激な増加を、蛋白質のフォールディングによる生理機能回復のためにHSP60が細胞質からミトコンドリア内に移行したものと推定できる。 また、虚血モデルラット脳内におけるHSP60とHSP10のmRNAの変動を観察した結果、コントロールと比較して優位に増加し、HSP60とHSP10共に8時間でピークを観察し、24時間後も斬減したままであった。HSP70はそれより早期にピークに達することから、虚血脳内におけるHSP70とHSP60/HSP10の作用機序は各々異なることが予想された。さらに、虚血モデルラット脳の組織染色の結果からもHSP60とHSP10は同一箇所に認められた。 これらの結果は、原核生物で報告されているように、哺乳類動物細胞でもHSP60とHSP10は複合体を形成し、脱水や虚血等のストレス負荷時には、HSP60とHSP10は細胞質からミトコンドリア内に速やかに移行し、ストレス負荷によって損傷を受けた細胞の保護することが示唆された。
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