原核生物のシヤペロニン(HSP60/HSP10)は、新規合成ポリペプチドを蛋白質固有の高次構造に折りたたむ分子シャペロンとして、構造や生理機能がほぼ解析されている。 一方、ミトコンドリア蛋白質のcDNAクローニングの結果から、真核生物、特に高等哺乳動物細胞にもシャペロニンホモログ(HSP60/HSP10)の存在が予想されていたものの、生化学的性質や生理機能等は不明のままであった。 以前、哺乳動物細胞質からHSP60を精製し、アミノ末端にミトコンドリア移行シグナルの存在を報告したが、HSP60のミトコンドリア移行機序と生理機能に関しては依然不明であった。今回の、研究で以下の点を明らかにした。 哺乳類HSP60/HSP10は、細胞質リボソームで合成され、その後、ミトコンドリアに移行する。 HSP60のアミノ末端に存在するミトコンドリア移行シグナル(26アミノ酸残基)結合蛋白質は、細胞質HSP70であり、HSP70を介してミトコンドリア内に移行する。 脱水ラット腎臓Papillaでは、細胞質のHSP60が脱水と共に減少し、ミトコンドリア内のHSP60が増加した。脱水時の浸透圧変化の最も激しいPapillaでは、細胞質のHSP60がミトコンドリア内に移行する。 虚血モデルラット脳内のHSP60とHSP10は、mRNAレベルで虚血と共に増加し、8時間でピークを迎え、HSP60とHSP10の局在や誘導は、共に一致した。 以上の結果から、哺乳類HSP60とHSP10は原核生物シヤペロニンと同様に、細胞内で複合体を形成し、脱水等のストレス時には細胞質からミトコンドリア内に速やかに移行する。その際、細胞質HSP70がミトコンドリア内の移行を介助する。
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