リゾフォスファチジン酸(LPA)で血清飢餓状態のSwiss 3T3細胞を刺激すると、ストレス線維、細胞接着斑の形成される。C3酵素で細胞を前処理しておくと、これら構造は形成されない。ROCK阻害薬Y-27632の前処置細胞においても、ストレス線維、細胞接着斑の形成は阻害されるが、それに加え、細胞周囲にmembrane rufflingが観察され。このrufflingはRacのdominant negative体を発現させることにより抑制されるから、Rac依存的なものであることが判明した。この結果はRhoからRacへのシグナル伝達機構の存在を示唆するものである。さらにこのシグナル伝達経路にCasおよびmDiaが関与していることを見い出した。その根拠として、Cas基質領域欠失変異体(CasΔSD)を発現細胞では、Y-27632処理およびLPA刺激により観察されるrufflingが抑制された。同様なことが、Srcキナーゼ阻害薬PP1で処理した細胞でも観察された。さらに、mDiaのC端断片も、Casと同様な効果を有していることが判明した。これらの結果ならびに、これまでの我々結果をもとにして、以下のモデルを考えている。Rhoの活性化されることにより、細胞にアクチンストレス線維、細胞接着斑の形成されるが、これにはRho標的蛋白質のROCK、mDiaが協調して働いているとが考えられる。C3を用いてRhoシグナルをすべて止めてしまうと、細胞周囲のmembrane rufflingは認められず、ROCKを阻害した時のみ観察されることから、ROCKは通常Racの活性を抑制しており、ROCK活性が阻害されることでRacが活性化されると考えられる。さらに、一方でRacの活性化にはmDiaおよびCasの関与が示唆された。
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