ヒトチオレドキシン(TRX)をβ-actin promoter制御下に全身に過剰発現させたトランスジェニックマウス(TRX-Tg)を用い、TRXの生体防御における役割について検討した結果、TRX-Tgは対照マウスと比較して、種々の酸化ストレスに耐性を示すことを明らかにした。TRX-Tgは対照マウスと比較して虚血による酸化タンパク質の集積が抑制され、脳梗塞巣が縮小される他、虚血性腎障害も抑制された。またTRX-Tgは対照マウスと比較して約25%の長寿傾向を示した。またTRX-Tgは抗癌剤であるブレオマイシンやIL-2+IL-18により誘導される肺の間質への白血球の浸潤および間質性肺炎・肺傷害に対しても抵抗性を示した。さらにTRX-Tgはinfluenza virus感染に対しても抵抗性を示した。これらの現象を説明するメカニズムとして、従来より明らかにされているTRXの抗酸化作用のみならず、循環血液中に放出されたTRXが白血球の血管外への漏出を抑制するという新たな作用基序を明らかにした。すなわち、マウスair pouchモデルにおいて、lipopolysaccharide (LPS)をpouch内へ投与すると、好中球を主とした白血球のpouch内への血管外漏出が誘導されることが知られているが、TRXの静脈内投与あるいはTRX-Tgでは、LPSよる好中球の血管外漏出が抑制された。TRXは好中球のLPSによるp38 MAPK活性化および細胞表面のL-Selectin (CD62L)の発現低下を抑制し、好中球の血管内皮細胞との接着を阻害することを明らかにした。以上より本研究において、TRXの細胞保護作用の新たな分子機構の一端を解明した。生体防御・老化予防へのTRXの臨床応用の可能性がますます高まりつつあり、さらに検討中である。
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