研究概要 |
胚性幹細胞(ES細胞)はあらゆる組織に分化しうる、いわゆる多能性を有する細胞である。現在この多能性の維持には、オクタマーファクターと呼ばれる一群の転写因子の中の一つである、Oct-3(Oct-4とも呼ばれる)が必須であることが知られている。しかし、なぜES細胞ではOct-1,Oct-6といった他のオクタマーファクターが発現しているにもかかわらず、これらではOct-3の機能を代償しえないのか、つまりOct-3の固有の性質とは何かという点についてはいまだ明らかとされていない。そのような状況下我々は一つの可能性として、Oct-3の特有の結合能にその固有の性質は起因するのではないかということを見出した。そこでさらにこの可能性を検証するために、(1)Oct-3特有のつまり、Oct-3のみが結合し、他のオクタマーファクターは結合し得ない配列を見出す、(2)そのOct-3固有の結合能を実際に規定している、アミノ酸一次構造上の特徴を見出す、この二点について平成12年度において研究を行った。まず、(1)については、Oct-3特有な認識配列として8つほど得られた。将来的には、ここで得られた情報をもとに、ゲノム上よりOct-3の下流遺伝子を見出す際の、一つの指標、あるいは手法として用いられるのではないかと考えている。(2)については、イーストワンハイブリッドシステムを利用し、UTF1遺伝子上で見つかったOct-3の特有な結合配列に結合しうるOct-6の変異体単離を試みたところ、DNA結合ドメインの一アミノ酸に変異の入った変異体が単離された。今後in vivoにおいて、すなわちES細胞を用いて、この変異体がOct-3の機能を代償しうる可能性について、平成13年度において検討を進めていきたい。
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