胚性幹細胞(ES細胞)は多能性を持つ、即ちあらゆる組織、細胞に分化しうることが知られており、この固有の性質維持には、一つにはオクタマーファクターと呼はれる転写因子群に属するOct-3が重要な役割をしていることが知られている。そこで私は今回配分された研究費を利用して、Oct-3のいかなる構造上の性質により、その多能性が維持されているのかについて研究し、その結果についてここに報告する。 ES細胞には、オクタマーファクターと呼ばれる転写因子は、Oct-3の他に、Oct-1、Oct-6の計3種類が発現していることが知られているが、未分化維持が可能なものはOct-3のみであることがすでに知られている。それではなぜ他のオクタマーファクターでは未分化能は維持できないのか、つまり、Oct-3固有の性質とは何か探るためにOct-3とOct-6のキメラタンパク質を作製し、Oct-3のどの領域が未分化維持に必須な部位であるかを探ることとした。その際の指標としては、このキメラタンパク質を、Oct-3を欠失させたES細胞に導入しその結果、未分化状態が維持されるか否かを用いることとした。以上の解析の結果、Oct-3によるES細胞未分化維持に必須な領域は、そのDNA結合ドメインのなかの、Linker portionとPOU-specific domainのα-helix1の2つの領域が必須であることが明らかとなった。さらに最も重要な点として、これら2つの領域により規定されるOct-3の固有の性質は、その特有な結合能であることが示されたのであった。
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