研究概要 |
α-フェトプロテイン(AFP)は胎児期の主要な血清蛋白質である。出生後その産生は停止するが、肝癌や卵黄嚢癌では強く産生され再び血液中に分泌されることから重要な腫瘍マーカーとして応用されている。しかし、その生物学的機能についてはほとんど明らかにされていない。免疫抑制機能があるとの報告があるが、異論も多い。 我々はヒトAFPを恒常的に発現するトランスジェニックマウスを作成し、以下の実験的自己免疫疾患発症モデルを用いてAFPの免疫抑制機能を明らかにしてきた。 1,ミエリン塩基性蛋白質の一部のペプチドを免疫原とした、ヒト多発性硬化症のモデルと考えられる実験的アレルギー性脊髄炎(EAE) 2,メチル化アルブミンを用いたリュウマチ性関節炎 3,サイログロプリンを用いた自己免疫性甲状腺炎 これらの自己免疫疾患モデルにおいて、恒常的にAFPを賛成するトランスジェニックマウスではいずれも有意にその発症が押さえられ、AFPの免疫抑制機能が明らかとなった。AFPは齧歯類とヒトではエストロゲン結合や糖鎖に差があるなど、やや異なった性質を示すが、マウスAFPを同様に恒常的に産生するトランスジェニックマウスを樹立して同様の自己免疫疾患モデルで検討を加えた。その結果、ヒトAFPを産生するトランスジェニックマウスとほぼ同様の結果が得られた。ヒトとマウスのAFPは共通して同様な免疫抑制機能を有することが明らかとなった。さらに詳しい免疫抑制機構を解析し、AFPを用いた自己免疫疾患治療についての検討が重要であると思われる。 AFP遺伝子の発生および肝発がんに伴う発現制御機構を調べるため、AFP遺伝子の転写制御領域を詳しく分子レベルで解析した。その結果、マウス及び人でのグルココルチコイドホルモンに対する応答性の違いを見いだし、これが、グルココルチコイドホルモン受容体結合配列と転写因子HNF4結合配列がオーバーラップして存在し、AFP発現に重要な働きをするHNF4に対する結合性の違いによるものであることが明らかとなった
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