研究概要 |
PASKは、Ste20類縁プロテインキナーゼファミリーに属し、脈絡叢上皮細胞、胃底腺壁細胞、腎臓遠位尿細管、副腎皮質球状帯細胞など電解質代謝に深く関わる細胞に強く発現している。本研究では、PASKの蛋白化学的な機能と生物学的機能について、次の成果を得た。 1.PASKは、生体内ではアクチンとチューブリンに結合しており、そのキナーゼドメインにアクチン結合部位が存在した。培養細胞では、PASKは熱などの細胞ストレスに応じてサイトゾルから細胞骨格に移行した。これらのことから、PASKは細胞骨格の制御に関わっていると考えられた(Tsutsumi, T., et al.(2000) J.Biol.Chem.275, 9157-9162)。 PASKのキナーゼドメインには細胞骨格結合部位が存在し、C端非触媒領域には細胞ストレス刺激下のみに細胞骨格と会合する部位が存在することから、PASKは、細胞ストレスに応じてキナーゼドメインとC端非触媒領域の2つの部位で細胞骨格会合し、キナーゼドメインはアクチン細胞骨格と、C端非触媒領域はアクチン以外の蛋白を介して細胞骨格と会合していると考えられた。 2.PASKの生物学的機能を解明するため、PASK遺伝子ターゲティングを行った。PASK欠失マウスは、外見上大きな異常がなく生育したものの、繁殖能のないオスが高率(2個体/5個体)に出現した。繁殖能のないオスの睾丸では、部分的に精細管が変性していた。更に、PASK欠失マウスには、腸管粘膜下に炎症細胞の浸潤があり、50-60週令になると、11例中9例に腸管腫瘤の形成がみられた。現在、この腫瘤の組織学的同定を行っている。 今後、上記形態学的異常の原因追及とともに、PASK変異マウス遺伝的背景が純系マウスと均一になったので、生殖行動や電解質代謝に関する生理学的実験を行い、PASKの生物学的機能を明らかにしたい。
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