アポトーシス時におこるDNA断片化を担う、2つの分子CAD、ICAD、それぞれについて、ジーンターゲティング法を用いてノックアウトマウスの作成を行った。CAD、ICADノックアウトマウス共に、様々なアポトーシス刺激に対して、DNA断片化はこれらCAD/ICADシステムだけで必要十分であることを示した。本年度は、作成したマウスを1年に渡って経時的に観察を行ったが、アポトーシス時に見られるcell-autonomousなDNA断片化を担うCAD/ICADシステムを欠損しても明らかな個体レベルでの変化は確認できなかった。実際、私たちはアポトーシス時に見られるcell-autonomousなDNA断片化を起こさないマウスにおいて、個体レベルではまだDNAの断片化が確認でき、このDNA断片化はアポトーシス細胞を貪食するマクロファージによるnon-cell autonomousなものであることを確認している。このことからCAD/ICADシステム以外にリソソームDNaseがそのバックアップシステムとして機能している可能性が示唆された。ちなみに、マクロファージ内のリソソームに存在し、アポトーシス細胞のDNA除去に関わると考えられるDNase IIについてノックアウトマウスの作成を行ったところ、このマウスは重篤な貧血によって胎生致死であることがわかった。成人型赤血球に分化する段階で脱核した核DNAの消化にこのDNase IIが重要な役割を担っていることが明らかになった。つぎにcell-autonomousなDNA断片化の生体内での役割を明らかにする目的で、Fasを介するアポトーシスを起こさない自己免疫疾患モデルマウス、FasノックアウトマウスとCADノックアウトマウスのダブルノックアウトマウスの作成を行い、Fasノックアウトマウスの自己免疫疾患の症状が亢進しないかを観察した。Fasノックアウトマウスは半年以上で自己免疫症状を示し死亡するが、ダブルノックアウトマウスは4か月と短命であり、早い時期から抗DNA抗体価の上昇等、自己免疫疾患の症状を呈した。このことから、アポトーシス時におこるDNAの断片化は、おそらく自己寛容を獲得するのに重要な働きを担っていることが示唆された。
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