研究概要 |
新しく発見したRas/Rap1結合能力を有するヒトホスホリパーゼC,PLCεが、活性型Ras,Rap1との共発現により細胞質から各々細胞膜およびゴルジ装置へ移送される事と、リポソームを用いた試験管内再構成系においてRasによりホスホリパーゼC活性が活性化される事を示し、Ras/Rap1との結合によって基質PIP2の存在する膜画分に移送されて活性化される標的蛋白質である事を証明した。細胞のEGF(上皮細胞増殖因子)刺激によりPLCεは細胞質から細胞膜とゴルジ装置へ一過性に移行したが、この移行は各々RasとRap1に仲介されていた。さらに、PLCεは、そのアミノ末端部に存在するCDC25類似ドメインにてRap1特異的グアニンヌクレオチド交換促進活性を持つことを示し、Rap1と結合してゴルジ装置に移送され活性化されると同時に、そこに存在するRap1を活性化する事によりシグナルを自己増幅する能力を持つ新しいタイプの標的蛋白質である事を示した。また、PLCεを細胞内で発現するとRap1が活性化され、その結果B-Rafが活性化されてMAPキナーゼカスケードの活性化が起こることを示した。この際、Raf-1は活性化されていなかった。in situ hybridization法によりPLCεがマウス胎生期神経管や脳・脊髄のventricular zone等の神経系前駆(幹)細胞(neural stem cell)が局在する領域に特異的に発現している事と、マウス培養奇形腫細胞P19のレチノイン酸による神経細胞分化誘導直後に発現が誘導され、神経細胞への分化に伴って発現が終結する事を発見し、PLCεが神経系前駆細胞の分化・増殖の制御に関わる可能性を見いだした。
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