Wntシグナル伝達経路は細胞の増殖や分化、初期発生時の体軸形成など様々な細胞機能を制御する。Wntのシグナルは、Fz/LRP受容体複合体からDvlを介して下流の細胞内のGSK-3β、Axin、β-カテニンへ伝達されるが、Dvlの作用を制御する機構については不明な点が多い。そこで、Dvlの機能を制御する分子機構を明らかにするためにDvl結合蛋白質を検索し、細胞内小胞輸送を制御することSynaptotagminと新規蛋白質を見出した。Dvlを発現させたPC12細胞では、脱分極刺激によるエクソサイト-シスが抑制されることから、WntシグナルがDvlを介して小胞輸送系を制御する可能性が見出された。もう一種類の新規Dvl結合蛋白質については、現在その全長cDNA配列を決定している段階である。一方、カゼインキナーゼIε(CKIε)のWntシグナル伝達経路での作用機構を解析した結果、CKIεとAxinはDvL上の異なる領域に結合することや、CKIε、Axin、DvIが三者複合体を形成しうることが明らかとなった。293細胞において、CKIεとDvlは相乗的に作用してTCF転写活性化を相乗的に促進したが、CKIε非結合型Dvl変異体は、この相乗作用を示さなかった。Axin非結合型Dvl変異体はCKIεの存在如何にかかわらず、TCF転写活性化を促進しなかった。さらに、DvlとCKIεは相乗的にアフリカツメガエル初期胚の二次体軸形成を促進した。よって、DvlとCKIεは相乗的にWntシグナル伝達経路を活性化して体軸形成を促進することと、このシグナル活性化にはDvlとCKIε、Axinの三者複合体形成が必要であることが明らかとなった。したがって、Dvlに結合する新規分子の同定を行ない、Dvlがこれまで知られていなかった小胞輸送を制御する可能性を見出し、DvlとCKIε相乗作用によるWntシグナル伝達経路の活性化の分子機構を解明することに成功しており、本年度の計画は、ほぼ達成されたと考えられる。
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