新しく開発した水位変化式強制水泳変法(水温15℃、30分間の水泳)で疲労させたSDラットは、負荷後歩き出すまでに平均54分、身震い運動できるまでに平均84分を要した。また負荷後、行動距離と最大運動速度の低下もみられた。この間に生体内で疲労の客観的指標と成り得る分子を、水泳後の経時変化を中心に検討した。疲労関連候補分子といわれているセロトニンの代謝物質は脳脊髄液で上昇が確認された。そのほか慢性疲労性症候群の患者でみられる血液中のアセチルカルニチンの変化や、抗酸化作用のあるアスコルビン酸・グルタチオンの血液・脳での変化は負荷直後にはみられなかった。従来から筋肉疲労物質といわれている乳酸は水泳中から血中に増加し、代謝性アシドーシスの状態になっていた。動脈血B.E.(塩基余剰)は負荷後30分で負荷前のレベルに回復したが、pHの低下、動脈血CO_2分圧(PCO_2)の上昇が負荷後3時間まで持続して観察され、呼吸性アシドーシスの状態から疲労状態が30分以上続いたと推測された。このように生体の危機に対して重要な生理的代償機構が作用しなくなることが疲労状態の持続因子となることが示唆された。この負荷による脳内の神経活動をFos蛋白の発現により観察したところ、大脳皮質・帯状回・海馬・扁桃体・中隔野・室傍核のほか、橋や延髄・小脳にも広範に発現が確認された。一方で呼吸・循環中枢も含めた脳全体へのグルコースの取り込みを[^<18>F]FDGを用いて測定すると、水泳後3時間は低下しており、疲労状態が30分以上持続したことの中枢性の要因と考えられた。中でも前頭前野・帯状回を含む大脳皮質・海馬・線状体においては小脳・橋部に比べて活動の低下率が大きかった。このような脳でのグルコースの取り込み低下は、他の断眠による疲労モデルでも同様にみられ、疲労時に脳の高次機能や感情が低下することの一因と考えられた。
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