我々はサルコグリカン複合体がα-ジストロブレビン(DB)、そしてシントロフィンを経由して神経型一酸化窒素(NO)合成酵素(nNOS)と分子的に結合可能であることを示した。骨格筋においてDBはN末側を共通とし分子量の異なる3つの分子種が発現しているが、一番小さなDB3はDB1やDB2と異なり構造上nNOSと結合不可能である。この分子種の筋組織中における局在に関心を持ち、その特異抗体作成を試みた。DB3特異的C末端配列に相当する合成ペプチドを抗原とした時、抗体生成は認められなかった。次にC末端領域の融合タンパク質を調製して抗血清を作成し(各分子種に反応)、DB3とのみ反応する抗体を上述の合成ペプチドを使って回収調製した。しかし力価が弱く組織染色において明瞭な結果を得るに至らなかった。 我々の仮説によればサルコグリカン欠損マウスだけがNOによる被害を受ける。NOの発生はチロシンのニトロ化を引き起こす。市販のニトロ化チロシン抗体を2種購入し、筋組織及び筋のホモジネートを染めた。しかし陽性の結果は得られなかった。一方NOの発生はチロシンのニトロ化等を経てアポトーシスを誘導する可能性がある。そこでアポトーシスのマーカーとして活性化キャスペース3特異抗体作成を試みるとともに、市販の抗体を購入し組織染色を行った。その結果サルコグリカン欠損マウス骨格筋において染色される線維がしばしば観察された。抗原部位に相当する合成ペプチドの共存の有無によって染色を比較したところ、その何割かで差が認められ、特異的な染色のあることがわかった。mdxマウスではこうした陽性線維は少なかった。ただしこれら線維は何れも壊死に近い線維であり、一般的なアポトーシスとは様子を異にすると思われ、慎重に検討したい。また骨格筋収縮に伴い発生するNOの定量を検討する。
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