我々はジストロフィン(dys)-ジストロフィン結合タンパク質(DAP)複合体内において膜貫通性のサルコグリカン(SG)小複合体と細胞骨格性のα-ジストロブレビン(DB)との直接的結合を見出したことから、DBを介したSG複合体による神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の活性制御を想定して当研究を始めた。DBが一方でnNOSのアンカータンパク質であるシントロフィン(Syn)と結合しているからである。骨格筋においてDBはN末側を共通とし分子量の異なる3つの分子種が発現しているが、一番小さなDB3はDB1やDB2と異なり構造上Synそしてdysと結合できない特徴を持つ。我々はこの特殊な構造を持つDB分子種に対する特異抗体を作成し、それを利用して免疫沈降法などの研究を行った。その結果dys-DAP複合体には、結合するDB分子種(DB1/DB2/DB3)によって区別される3種類が存在すること、そしてこれらの中ではDB3を擁した複合体だけが(dys自身にもDB1/2と同様Syn結合部位があるにもかかわらず)Synを結合していないこと明らかにした。即ちnNOSと結合できないdys-DAP複合体が自然界に存在することを示す結果を得た。nNOS、そしてこれと結合することが知られているカベオリン-3の発現や局在の異常が筋線維崩壊に関与することが考えられていることから、それらの局在とこのヘテロなdys-DAP複合体の存在がどう関係するかに関心を持ち、研究を進めた。一つはカベオリン-3を含むラフト分画との関係を明らかにする生化学的解析、他は筋細胞膜上のコスタメア構造における分布を解析する免疫組織化学的研究である。しかし技術的な問題もあり、この研究期間終了時点までに結論を出せないでいる。
|