本研究の目的は、短期間だが極めて高度の高血圧を来す悪性腎硬化症(悪性高血圧)の剖検例の脳動脈病変を連続切片再構築法(病変の性状とその分布並びに程度)と動脈中膜の厚さ(高血圧の有無と程度の指標)の組織計測とによって検索して、高血圧を基盤とする血管性痴呆であるビンスワンガー脳症の動脈病変と比較する事である。これによってビンスワンガー脳症における高血圧の重要性が明らかになると考えられる。本年度には、5例の悪性腎硬化症の大脳前頭葉の動脈について検索した結果、その中の1例にビンスワンガー脳症に見られるのと同程度に高度の動脈病変が認められ、その動脈中膜の厚さの増大も最も高度であった。又、心重量の点でも、その例では900gと、5例の中で最大であった。その動脈病変は大脳白質に分布する髄質動脈に著しく、内膜の線維性肥厚と粥腫、中膜筋層の平滑筋消失、外膜の線維性肥厚からなり、白質内の一部の小動脈には類線維素壊死も認められこれらは高血圧性病変と判断された。しかし、ビンスワンガー脳症に見られる様なびまん性髄鞘脱落と白質の萎縮はどの例にもなかった。他の5例の心重量は380〜700gであり、それらの動脈中膜の肥厚は正常血圧例よりも有意に高度であったが、動脈病変の程度は格段に軽微であった。以上の結果から、高度の高血圧が一定期間持続すればビンスワンガー脳症で認められるものと同程度の脳動脈病変が生じ得る事、ビンスワンガー脳症ではこれが基盤となって大脳白質への血流調節が長期間に亘って障害されて髄鞘のびまん性浮腫性破壊と白質の萎縮が生じると理解できる。 この結果は本年の第90回日本病理学会で発表する。次年度には、この動脈病変を免疫組織化学的に検索して、病変のさらなる詳細を明らかにする予定である。
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