研究概要 |
甲状腺転写因子(TTF-1)は1990年に甲状腺組織から発見された蛋白で、甲状腺のホルモン合成に関連する種々の蛋白(Thyroglobuline, Thyroperoxidase, TSH receptor等)をコードする遺伝子のプロもター部分に結合し、その遺伝子の転写を促進する転写調節蛋白として知られている。現在まで、TTF-1の構造や機能に関しての研究はいくつか報告されてきたが、不明な点も多く、また腫瘍を中心とした病変との関連についてはほとんど知られていない。 我々は、甲状腺転写因子(TTF-1)の発現を免疫組織化学および分子病理学的な手法を用いて甲状腺腫瘍で検討した。免疫組織化学的にTTF-1蛋白は濾胞上皮細胞の核に局在し、濾胞上皮細胞に由来する良性および悪性の甲状腺腫瘍でも大部分の腫瘍細胞の核内に証明された。しかしながら、Thyroglobulineなどの蛋白が陰性である未分化癌ではTTF-1蛋白は陰性であった。in situ hybridization法ではTTF-1mRNAのシグナルは正常濾胞上皮細胞とともにやはり腫瘍細胞にも強く認められ、Nothern blotting法でも、その発現強度は症例により差が認められたものの、甲状腺腫瘍にもかなりのレベルで検出された。さらに、RT-PCR法でも同様にTTF-1mRNAが正常組織と同様に腫瘍組織でも認められた。 免疫組織化学によるTTF-1蛋白は、濾胞上皮細胞のみならずカルチトニンを分泌する傍濾胞細胞(C細胞)の核にも陽性所見が認められ、さらに傍濾胞細胞に由来する髄様癌細胞の核にもTTF-1蛋白の陽性所見が認められた。In situ hybridization法、Northern blotting法、PT-PCR法のいずれの方法でも、正常傍濾胞細胞および髄様癌細胞にTTF-1mRNAの発現があることが証明された。 以上より、甲状腺転写因子(TTF-1)は蛋白、mRNAともに正常甲状腺組織と同様に腫瘍組織においても検出され、とくにC細胞由来の腫瘍である髄様癌細胞にも発現することが証明しえた。
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