アルツハイマー病の特徴的病理所見は、βアミロイド蛋白の線維性凝集からなる老人斑と神経細胞死である。本研究の目的は、アルツハイマー病脳におけるヒト脳型カルボキシペプチダーゼB(HBCPB:βアミロイド前駆体蛋白分解能をもつ脳プロテアーゼで、特異的モジュールCPB14をそのC端にもつ)の発現変化と、βアミロイド蛋白の沈着の程度および海馬神経細胞のアポトーシス、脱落の程度を検索し、本疾患におけるHBCPBの役割を解明することである。アルツハイマー病、痴呆を主症状とするパーキンソン病、多系統変性症、脊髄小脳変性症、痴呆を伴う筋萎縮性側索硬化症、Kreuzfeld-Jakob病および正常対照脳についてβアミロイド蛋白沈着の程度と神経細胞脱落の程度を検索した。その結果、アルツハイマー病においては神経細胞の脱落に比例して、その細胞質内でのHBCPB発現(抗CPB14活性)の有意な低下が観察された。老人斑沈着の程度との相関はアルツハイマー病の晩期では明かではなかった。Tune1法を用いたアポトーシス細胞、同予備細胞の検索では、核の定型的変化を伴わないTune1陽性細胞が、アルツハイマー病のみならず他の変性疾患においても観察された。アルツハイマー病における神経細胞死は抗CPB14活性でみたHBCPB発現低下との相関の存在が推定され、さらに細胞内小器官における局在形態の変化もうかがわれた。
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