研究概要 |
我々は種々の軟部肉腫に対して広範な分子生物学的な解析を行い以下のような結果を得た。 1.脱分化型脂肪肉腫および脱分化型軟骨肉腫:p53遺伝子異常とH-ras遺伝子異常の頻度は同一腫瘍組織内では、分化した成分に比較して脱分化成分に有意に高頻度に認められた。 2.滑膜肉腫:SYT-SSX融合遺伝子の検出はこの腫瘍の診断に大変有用であった。しかしながらSYT-SSX1とSYT-SSX2亜型の間で予後に有意差を認めなかった。アポトーシスの増加、p27 labeling index低値、E-cadherinおよびalpha-cateninの発現減少、beta-cateninの異常発現、beta-catenin遺伝子変異、およびhepatocyte growth factorとc-METの共発現が予後不良因子であった。E-cadherin遺伝子異常は予後と相関しなかったが、この腫瘍の形態形成に関与している可能性が示唆された.p53,MDM2,Ras遺伝子異常は予後に影響を与えなかった. 3.悪性ラブドイド腫瘍:この腫瘍は非常に予後不良であり、p53遺伝子異常を高頻度に認めまたhSNF5/INI1遺伝子の何らかの異常を検索した全例に認めた。 4.悪性末梢神経鞘腫瘍(MPNST) : von Recklinghausen氏病を伴う例では良性の神経線維腫の成分に比較して悪性転化を示した部分ではp53蛋白、TGF-beta1、TGF-betaレセプターII、HGFおよびc-METの発現が有意に高かった。通常のMPNSTではMIB-1 labeling indexの高いもの、横紋筋芽細胞の出現するもの(いわゆるmalignant Triton tumor)が予後不良であった。p53の遺伝子異常は予後に影響を与えなかった。 5.腹壁外デスモイド腫瘍:この腫瘍においてbeta-cateninの異常発現はcylinD1の発現増強と相関関係を示し、beta-cateninがoncoproteinとして作用している可能性を支持した。Beta-cateninの遺伝子異常を有するものはそうでないものに比較してcyclinD1 mRNA発現量が増加していた。
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