本研究の目的は、Fluorescent differential display(FDD)法を用いて前立腺癌に特異的発現パターンを示す遺伝子検索を行ない、有用と示唆されるものについてはその特異的モノクローナル抗体を作製することである。前立腺癌症例の中で、腫瘍組織と非腫瘍組織が明確に分別できる3症例を選択した上でFDD法により正常部位と癌部位で明らかに発現増幅が異なる遺伝子のバンドを検出した。発現変化が認められたバンドから回収した遺伝子断片67種の塩基配列のうち31種が既知遺伝子と一致し、これらの遺伝子には癌原遺伝子、転写因子、サイトカイン、シグナル伝達分子等の癌との関連性が報告されているものが認められた。また、機能不明遺伝子として最初にA204Cに関してその全長のクローニングを進めた。Prostate cancer antigen-1(PCA-1)と命名したこの遺伝子は、染色体11p12に位置し、少なくとも10個のexonで構成されていることが判明した。アミノ酸配列からPCA-1遺伝子がコードする蛋白質は推定43kDaの核蛋白質であり、遺伝子の転写に関与する可能性が推測された。合成ペプチドを抗原として作製しwestern blotでその発現を確認するとともに、免疫組織学的に種々の腫瘍組織及び前立腺癌組織について発現を検討した。その結果、脳腫瘍、甲状腺癌、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌及び腎癌はいずれも全例陰性で、前立腺癌のみに90%(63/70)と高率にPCA-1の発現を認めた。組織学的分化度などとの相関はなかったものの、前立腺癌の前腫瘍性病変といわれるPINにおいても50%(11/22)に発現がみられ、PCA-1は少くとも前立腺癌発生初期に特異的に関与する遺伝子群の1つで、今後の機能的解析が必要と思われた。
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