1.ヒト腫瘍におけるミトコンドリアDNA(mtDNA)変異の検索 散発性大腸癌45例、胃癌62例を対象にmtDNAの解析を行い、以下の結果を得た。(1)非翻訳領域内(C)n多型配列においてmicrosatellite instability(mtMSI)が検出された(大腸癌20例;胃癌10例)。特に胃癌ではIntestinal型で高頻度にmtMSIが検出された。(2)翻訳領域内の遺伝子変異は大腸癌7例、胃癌6例で認められ、上記のmtMSI陽性例とよく一致した。以上より、mtMSIが非特異的な現象ではなく核DNAのMSIと同様にミスマッチ修復機構の異常に起因する可能性、そしてミトコシドリア遺伝子の機能異常が特定のヒト腫瘍に関与する可能性が考えられた。 2.ヒトミトコンドリアDNAにかかわるミスマッチ修復遺伝子の探索 酵母で証明されているミトコンドリア特異的ミスマッチ修復遺伝子(MSH1)の塩基配列をもとにPCRプライマーを作成し、ヒトDNAを鋳型としてネクリーニングを行った。その結果、酵母MSH1およびヒトMSH2遺伝子と相同性の高い(各62%、59%)、258塩基の断片を得た。だが、同DNA断片の発現はNorthern blotおよびRT-PCR解析では検出されず、偽遺伝子である可能性が考えられた(第59回日本癌学会報告)。 3.mtMSI陽性培養細胞株の探索と細胞融合によるmtMSI発生機構の解明 大腸癌培養細胞株6種(SW48、SW620、LoVo、DLD1、HCT116、HT29)を対象に、4週間の培養(約30回の分裂)前後における(C)n配列を比較し、mtMSIの評価を行った。(C)n配列には細胞株間での多型が存在するが、(C)n配列の変化はいずれの細胞でも認められず、6種の細胞はmtMSI陰性と判断された。他の培養細胞株についても検索中である。
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