特発性間質性肺炎(Idiopathic pulmonary fibrosis、以下IPFと省略)に高頻度に発生する肺癌の機序を解明するため、(1)体質的素因の関与について発癌性芳香族炭化水素の解毒・代謝能の検討、(2)遺伝子メチル化およびK-ras遺伝子の異常の有無について検討を行った。 (1)発癌性芳香族炭化水素の解毒・代謝能の検討結果:Glutathione S-transferase M1(GSTM1)、microsomal epoxide hydrolase:mEHのexon3および4、CYP1A1の遺伝子多型性について組織切片または血液検体を用いて、一般肺癌群、健常群と比較検討した。IPF群では、一般肺癌群と同様に、健常群に比べてmEH、exon3のホモ接合性変異型を高率に認めた。GSTM1およびCYP1A1については有意な差は認められなかった。 (2)遺伝子メチル化およびK-ras遺伝子の検討結果:p16、MGMT、DAP-kinase、RASSF1A、GSTP1、APC、以上6種類の遺伝子プロモーター領域のメチル化の有無について、IPF部と合併肺癌部、一般肺癌例の肺癌部と正常肺部の組織切片を用いてMethylation specific PCR法で比較検討した。IPF部では、MGMT、RASSF1A、APC遺伝子のメチル化が既に高率に生じていることが判明した。またIPF合併肺癌は、一般肺癌と比較するとp16とRASSF1A遺伝子のメチル化を高率に認めた。一方、K-ras遺伝子の異常について、SSCP法で検討したが、IPF部では認められなかった。 以上の結果より、IPF発症においては発癌性芳香族炭化水素の解毒・代謝能の低下という体質的素因が関与していることが示唆された。また、IPFでは既に遺伝子のメチル化の異常を生じており、この事実が肺癌が高率に発症することに関与している可能性が示唆された。
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