研究概要 |
12年度は、左冠状動脈前下行枝(LAD)における心筋架橋(MB)の近位及び遠位、MB部分の冠状動脈の内皮細胞中における血管作動性物質(eNOS、ET-1、ACE)の発現状況について、免疫組織化学染色を行い、それぞれの部分における動脈内膜の肥厚度との関連を検討した。 結果:1)内膜肥厚度の比較;MB被覆下LADでの内膜肥厚度は、MBより近・遠位部LADのそれより有意に低かった。2)内皮細胞における各血管作動性物質の発現は、MB近・遠位のLADでは、多数の内皮細胞に発現を認めた。これに対し、MB被覆下のLAD内皮細胞ではより低い発現が観察された。又、MB近位には、アテローム硬化性病変内の新生血管内皮細胞、中膜平滑筋細胞、内膜内の平滑筋細胞にも弱い発現が認められた。3)MB及びMB近位、遠位における各血管作動性物質発現群の統計的比較;MB下LADでの平均発現率を基準として、MBより近位及び遠位LADでの平均発現率を比較すると、3種の各血管作動性物質の発現率は、いずれもMB下LAD内皮細胞において、MBより近位及び遠位のLAD内皮細胞と比較して有意に低かった。4)アテローム硬化度と内皮細胞におけるeNOS、ET-1、ACEの発現は正の相関を示した。 考察:12年度の研究から、すり応力と3種の血管作動性物質の内皮細胞における発現に関し、本研究結果では、高ずり応力環境下のMB部分の内皮細胞でET-1、ACE、eNOSは発現低下を示した。今回の研究結果であるeNOS発現低下は、in vitro環境下の培養細胞を用いた高ずり応力負荷時の発現増強という既報告とは逆の結果となったが、ET-1、ACEの発現に関しては、MB部分の内皮細胞で低下を示し、in vitro環境での既報告と同傾向であった。 12年度の研究では、内膜肥厚の程度が強いMB部分以外の低ずり応力部位の内皮細胞にてET-1,ACEの発現は亢進していたところから、低ずり応力部位はET-1,ACEの発現に影響を与えていることにより、アテローム硬化進展に関与するものと考えられた。
|