研究概要 |
平成12-13年度に亘り、心外膜脂肪織中を走行する左冠状動脈前下行枝(LAD)の一部分を被覆する心筋架橋(MB)により惹起される同部冠状動脈内膜のアテローム硬化抑制機構につき、MBとその近位、遠位部の内膜内皮細胞及び内膜中において血管内でずり応力に関連して発現の変化する血管収縮蛋白、凝固・線溶関連蛋白の消長を分子病理学的に検討した。又、同時に、前下行枝における心筋架橋の位置・長さ・厚さなどの解剖学的特性による、冠状動脈硬化病変の局在に与える影響について形態計測的に検討した。 [結果] 1)MB被覆部のLADの内膜肥厚度は、MBの近位・遠位部のそれに比して、有意に低く、内皮細胞や内膜平滑筋細胞における血管収縮蛋白(e-nitrogen oxide synthase, endothelin-1,angiotensin converting enzyme)の発現はMB部分で有意に低下を示しており、近位・遠位部ではこれらの発現が亢進していた。 2)MB被覆部のLADの内皮細胞や内膜平滑筋細胞・内膜間質における凝固・線溶関連蛋白(tissue factor, plasminogen activator-1, tissue plasminogen activator)の発現は、MB部分で、有意に低下を示していた。1)2)から、LADのMBにより被覆された部分の動脈内膜は、内皮細胞や平滑筋細胞においてずり応力に対応する諸分子の消長により、アテローム硬化が抑制されることが明らかとなった。 3)LAD中におけるMBの位置、長さ、厚さを指標とした解剖学的特性とMB部分と近位・遠位部のそれぞれの内膜肥厚度の相互の関係を組織計測的に検討すると、MBの長さ・厚さに依存してMB部分の内膜肥厚抑制効果は、有意に増大する。1)2)3)は、MR部分の血流はずり応力によって支配されていることを間接的に示す形態学的所見と結論される。
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