研究概要 |
軟部組織には多種類の腫瘍ならびに腫瘍状病変が生ずるが,多彩な組織形態を示すため,病理学的診断はしばしば困難である.本研究の目的は軟部腫瘍の細胞遺伝学的および分子生物学的特徴を明らかにし,診断の精度向上に役立つ基礎的なデータを得ることである. (1)Bednar腫瘍の染色体分析とFISHを初めて行い,本腫瘍に特徴的な余剰環状染色体が17番と22番染色体の成分から構成されていることを見出した.(2)隆起性皮膚線維肉腫と富細胞性皮膚線維腫との鑑別は困難であるが,CGH分析によって,前者では17q22-qterおよび22q13のgainがあることが鑑別に利用できることを明らかにした.(3)滑膜肉腫は上皮様成分と紡錘形細胞成分からなる特異な悪性腫瘍であるが,我々はemmbrane-based laser microdissection法とRT-PCRおよびFISHを用いて,両方の成分ともにSYT-SSX fusion transcriptを有することを明らかにした.(4)末梢神経鞘腫瘍のCGH分析によって,染色体17,19,および22qのimbalancesが高率に検出され,これらの異常が末梢神経鞘腫瘍の発生に関与している可能性が考えられた.NF1-associated neurofibromaでは17p11.2-p13のlossが多く見られ,癌抑制遺伝子p53(17p13)の変異との関連が示唆された.(5)弾性線維腫のCGH分析によってXq12-q22のDNAコピー数の増加が検出され,本腫瘍の発生との関連性が考えられた.(6)線維形成性小円形細胞腫瘍(desmoplastic small round cell tumor)は小児に生ずる難治性の悪性腫瘍であるが,我々は本腫瘍からはじめて培養細胞系を確立し,スキッドマウスへの移植にも成功した.これを用いて,従来不明であった本腫瘍の本態解明と治療方法の開発に利用することが期待される.
|