ショウジョウバエの癌抑制遺伝子として最近見い出されたWarts/LATS1遺伝子の欠損マウスでは高率に軟部肉腫や卵巣腫瘍を発生することが報告されているが、ヒト腫瘍におけるこの遺伝子ホモログ(h-Warts/LATS)の変異を調査した研究は乏しい。本研究ではヒト軟部肉腫を対象とし、種々の分子生物学的手法を用いてこの遺伝子変異の有無を検索した。初年度にはそれまで未確定であったh-Warts/LATS1遺伝子の構造をより明らかにするとともに、reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法によって50例のヒト軟部肉腫を検索し、7例において遺伝子発現の低下ないし消失を認めた。次年度には、この7例についてh-Warts/LATS1遺伝子が局在する6q24-25.1のマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝子欠失の有無を検討し、遺伝子発現が低下していた1例において欠失を見い出した。次にPCR-single strand conformation polymorphism(SSCP)によってこの遺伝子の翻訳領域における点突然変異の有無を検索し、7例中2例においてミスセンス変異を見い出した。さらに最終年度にはこの遺伝子の5'プロモーター領域におけるCpG配列のメチル化の有無をメチル化配列特異的なPCR法によって検索し、遺伝子発現の消失していた6例においてCpG配列のメチル化を認めた。以上の結果から、遺伝子欠失や点突然変異を含む種々のh-Warts/LATS1遺伝子変異がヒト軟部肉腫の一部の例で認められ、特に5'プロモター領域におけるCpG配列のメチル化に基づく遺伝子発現の消失が、それらの変異の中では高頻度に認められることが示された。したがってh-Warts/LATS1遺伝子がヒトにおける癌抑制遺伝子の一つであることを本研究で示すことができた。本研究結果も含めh-Warts/LATS1遺伝子に関して得られる情報が、今後ヒト腫瘍、特に軟部肉腫の診断や遺伝子治療等に臨床応用されることが期待される。
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