研究概要 |
hnRNP B0蛋白は、核内RNA結合蛋白の一種であるhnRNPA2/B1の精巣特異的なスプライシングアイソフォームである。これまでin vitroの機能解析から、B0蛋白が一本鎖テロメアDNAに特異的に結合し,その維持と機能に関わっていることが予測された。そこで、このB0蛋白の生体内での機能を明らかにすることを目的として、発生工学的な研究を行った。 1)pEF-B0SベクターにB0蛋白のcoding sequenceを組込んだ導入遺伝子を作製した。このB0組換え遺伝子を培養細胞にトランスフェクションし,B0蛋白が過剰発現されることを確認した. 2)B0組換え遺伝子をBDF1マウスから採取した受精卵に注入して型どおりトランスジェニックマウス(TGマウス)を作製した。その結果B0トランスジーンを有するTGマウスが7系統得られた。 3)各組織におけるB0遺伝子の蛋白レベルの発現を解析した結果,B0蛋白を安定して全身に発現するマウスは2系統であった。 4)シングルコピーのB0遺伝子が導入された#257系統を、交配繁殖し解析した。オスのTGマウスは妊孕性の低下を示し、ホモでは精巣が萎縮し完全不妊であった。 5)組織形態学的な解析より、精巣の萎縮の原因は、精子形成異常で、減数分裂直後の半数体の球状精子細胞段階で成熟が停止し、アポトーシスを起こすことが明らかになった。また、精巣以外の臓器組織には明らかな変化はなかった。 以上から、過剰に発現されたB0蛋白は精巣においてのみ作用し、精子成熟を抑制する機能があることが明らかとなった。本研究作製したB0-TGマウスは、精子形成過程の解明に貴重な情報を与えるものと考えられる。現在、精子成熟異常の分子レベルの機序を検討しており、さらにB0-TGマウスのテロメア維持機構について比較解析を進めてく予定である。
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